神村学園の西原維吹(いぶき)選手(3年)の父正勝さん(48)は、1994年に佐賀商が全国制覇したチームの主将。九州勢同士の決勝となった樟南(鹿児島)戦では、勝負を決める満塁本塁打を放った。「父と同じ景色を見たい」。目指すは、親子2代にわたる全国制覇だ。
野球を始めたのは小学2年のとき。二つ年上の兄がプレーしているのを見て「楽しそう」と思ったのがきっかけだった。父から野球を勧められたこともなく、甲子園の全国制覇も知らなかった。野球を始めて1年ぐらいしたとき、周りから聞いて初めて知ったという。
昔から、父とあまり野球の話をしたことはない。試合を見に来てくれても、自分から聞かない限り、何も言わなかった。プレーで悩んだときは「自分で考えなさい」。すぐに答えは教えてくれなかった。
両親からいつも言われてきたのは「文武両道を目指しなさい」。野球だけを一生懸命やってもダメだと教えられてきたという。
兄は父と同じ佐賀商を選んだが「高いレベルで野球がやりたい」と自分は神村学園を選んだ。そのときも父は「全部まかせる」だった。
高校時代の父は遊撃手。父を意識したことはないが、「華があるポジション」にあこがれ、ずっと内野手でプレーを続けてきた。高校に入ってからは二塁手で、鹿児島大会では6番打者としてチーム最多の6四死球。派手さはないが、堅実なプレーでチームを支えた。
父が本塁打を放った映像を見たことがある。4―4で迎えた九回表二死満塁。大観衆の中で堂々とプレーをしていた。「あの場面で打ったメンタルがすごい」。プレッシャーがかかる中、自分なら打てたかどうか。父にはまだまだ及ばないと感じている。
甲子園出場を決めたときも父は「ここからがスタートだぞ」としか言わなかった。全国制覇を経験しているからこそ、甲子園で勝つことの厳しさを教えてくれた気がする。神村学園は13日の大会第8日第3試合で、開幕試合を勝ち上がった創成館(長崎)との初戦に臨む。